「適切な住居」の考え方の基本は、住んでいる人の健康や安全、その人が幸せを追求できる環境、ということです。

 「適切な住居」の主人公は、そこに住むその人です。そして「適切な住居」とは、建物や器としての住居だけでなく、その人が生活をする範囲のすべてを含みます。

 では具体的に「適切な住居」について、国連の社会権規約委員会の考え方をみてみましよう。

 まず健康に生活をするためには、雨風を防ぎ、暑さ寒さをしのげる住まいが必要です。日も当たらない、じめじめした所に住んでいたら、元気な人でも病気になってしまいます。また伝染病などを防ぐためには、きれいな水が使えて、ゴミや汚水がちゃんと処理されることも必要です。もちろん大気汚染や騒音といった公害も健康の敵です。

 世界保健機構(WHO)は居住環境と病気との間には大きな関係があると指摘しています。住まいや生活の条件が悪いと、病気になりやすく、死亡率も高くなるのです。

 電気やガスがなかったり、日常の買物に何時間もかかるようでは、あまりにも生活に不便です。通勤や通学が大変だと毎日疲れ切ってしまって、体をこわす原因になりかねません。
 病院や救急施設などが近くにないと、いざというときに命に関わります。

 また、経済的に無理なく暮らせるということも大事です、少ない収入の半分ほども家賃で取られたり、どこに行くにも交通費がかかってしようがないようでは、とても暮らしが成り立ちません。

 人の人生には、年をとる、事故や災害にあうなど、個人の力ではどうしようもない出来事もあります。今は若くて健康な人でも、いずれ年をとりますし、いつ、だれが、何かの拍子で、障害を負ったり財産をなくしたりするかわかりません。そんなときにも安心して生きていけるよう、お年寄り、障害者、災害被害者など、社会的に不利な立場の人々には特別に気を配って住居を保障する必要があります。
 恵まれた人しか人間らしい暮らしを送れないような社会は、不公平なだけでなく、不安定です。

「適切な居住に関する一般的意見」は、国連の社会権規約委員会が、1991年に発表したものです。 この委員会は「経済的、社会内及び文化的権利に関する国際規約(国際人権規約A規約)」が具体的に実施されることを目的として、設立されました。(資料編参照)


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