「豊かな国における居住権侵害:阪神大震災とその後」

-----ハビタット国際連合による事実調査報告書(要約)-----


ハビタット国際連合(HIC)は、メキシコ市に本部を置く独立の居住権擁護団体で、75カ国以上の350を超える非政府組織および地域社会レベルで活動する組織の連合体である。HICは日本政府が国際的に負っている法的義務と、震災後の神戸市内外の居住の実情との間には無視することのできない隔たりがあると判断した。この判断は1995年9月23日から30日まで神戸市内外で行われた事実調査活動に基づくものである。

幅広い現地調査とあらゆるレベルの行政との会合、さらに綿密な調査の結果、ハビタット国際連合は、国際的に認められた適切な居住の権利が十分に尊重されておらず、できるかぎり速やかにこの状況を改善するために行政のあらゆるレベルで多くの措置がとられなければならないとの結論に達した。特に、日本政府は1979年9月21日以降、経済的・社会的および文化的権利に関する国際規約に法的に拘束されているので、緊急にこの国際規約の第11条1項に規定されている適切な居住への権利の完全な享受を全てのものに確保する重要性を強調したい。

もし、日本国政府があらゆる利用可能な手段を用いてこの目的のために必要な措置をとらなければ、神戸が日本における野外生活者の首都になってしまう可能性があることを深く憂慮する。

さらにHICは、震災後8か月以上たった今、何十万人という被災者が直面している居住および生活条件に関しても深く憂慮している。待機所 / 避難所、および仮設住宅あるいは公園で暮らしている人々の多くが直面している生活状況は、居住の適切さに関する基本的な国際基準を充たしていない。本報告書においては、特に、住居所に住み続ける権利の保証がないこと、住宅に関する政策決定過程に開かれた住民の参加がほとんどないこと、そして仮設住宅所在地の多くに見受けられる問題点と低い水準に懸念を示した。

最低限、ハビタット国際連合は以下のことを日本の様々な行政府(中央官庁、県、市)に勧告する。

(a) 震災前に住んでいた地域や隣人のなかに戻ることを希望する被災者全てに、その権利を確保すること。

(b) 仮設住宅に住み公営住宅に入居をすることを希望している全ての被災者に家賃が支払えるような適切でかつ市の中心から遠く離れていない所に公営住宅を供給することを権利として保障し、さらに一般的に、国際人権法の下で認められているような、住むに適した、尊厳の認められる健全な住居を提供すること。

(c) 被災者の強制立ち退きを行わず、あるいはそれを黙認せず、政府に課された居住権に関する義務を完全に尊重すること。

(d) 住民側の代表と行政側同人数からなる住宅問題を含む震災復興の為の諮問委員会を設置し、対話と民主的な政策決定を促進し、可能なかぎり迅速な方法で全てのものに適切な居住の権利の完全な実現を確保すること。

(e) 住民の要求を反映させるような方法で、待機所と仮設住宅の生活居住環境を改善するための措置を早急に講じ、住民が受け入れ得る水準にひきあげること。

(f) 全ての被災者に増額された適切な水準の補償を支払うこと。特に劣悪な居住環境に起因する震災後外傷により死亡した人々の家族、家屋が誤った診断により解体されてしまった人々には、増額された適切な水準の補償が支払われるべきである。なぜならばこれらは行政の適切な介入により防ぎえたものであるからである。被災者に対する債務の救済、無利子貸し付けも考慮されなければならない。

(g) 特に女性が必要とすること、および女性の権利を考慮に入れ、すべての女性が平等な扱いを受ける権利を完全に享受できるよう確保すること。このなかには女性が家の中で安全であること、家庭内あるいはその他の暴力にさらされず、完全な公正さと尊厳を持って扱われることが含まれる。

(h) 必要とされる特別措置により、居住の権利が損なわれやすい人々の権利の実現を優先すること。特に子供、女性、身体的・精神的障害者、民族的少数者、歴史的に差別されてきた人々およびホームレスの権利を優先させなければならない。

(i) すべての市民と、その他の合法的な居住者に、定まった住所を欠いていても、人権の問題として十分な福祉の援助を提供すること。

(j) 経済的・社会的および文化的権利に関する国際規約により課されている法的義務、とくに第11条1項に関する法的義務を誠実に履行すること。そして震災後の立法、政策および計画が国際規約の規定に確実に一致するようにすること。

(k) 国連の経済的・社会的および文化的権利に関する委員会に、可能なかぎり早い時期に提出期限から大幅に遅れている日本政府の報告書を提出すること。

(l) 人権に関する章のなかに、適切な居住に関する権利を明確な人権として含むように日本国憲法を修正することを考慮すること。