「上筒井から」Vol.8(Dec. 2000)

神戸から

神戸空港問題のこと - 入院してみて気付かされた事 (1)


神戸空港問題のこと <扇 千景大臣への手紙>

 今の神戸では考えられないことですが、神戸市議会は1971年10月に関西新国際空港神戸沖案反対請願を採択し、72年3月には神戸沖案反対決議をしています。決議には「市民の健康と環境を代償として、若干の経済的利益を得ることのみによって、空港建設を促進することは良識あるもののとるべきところではありません。」とあります。

 この反対決議は、当時の反公害の世論の中での住民運動の成果と云えましょう。神戸YWCAはいち早く、71年5月に新空港神戸沖案に反対を表明しています。そして他の反対住民運動団体とのネットワークのキイステーションとしての役割を担ったのです。

 新空港の泉南沖決定で運動はいったん終わりましたが、90年に市議会が空港建設を決議し、95年の大震災の直後には、市長の空港計画継続発言がありました。市長発言を機に、全市的に空港建設に疑問の声が上がりました。それが神戸YWCA会長が代表世話人に加わった、98年の「神戸空港・住民投票の会」の結成となり、『神戸空港建設の是非を問う住民投票条例の制定を求める直接請求署名』運動につながって行きます。

 YWCAでは、会として署名収集にあたりましたが、結果としては残念ながら住民投票には至りませんでした。しかし反対運動は続いています。今年9月15日の工事中止を求める市民の集いには賛同人として名を連ねました。「憲法9条を堅く守る」を強調点とするYWCAは、ガイドラインに伴う空港の軍事利用に危惧をいだいています。

 無駄な公共事業の見直しが言われる今、あきらめないで、あらゆる機会を捕らえて、空港建設の中止を訴えて行きます。

 扇建設大臣への手紙は2通目ですが、今のところ反応はありません。

(影)


建設大臣 扇千景殿

 秋の気配漂うこの頃でございます。

 神戸ゆかりの扇千景さんが、初の女性建設大臣として、ご活躍のご様子を拝見して、神戸市の女性団体である神戸YWCAは、熱い期待を寄せております.

 あの大震災からまもなく6年を迎えようとしています。被災地は表面的な復興とはうらはらに、まだまだ深いところで痛み抱えております。

先般、公共事業の見直しが発表されましたが、私達が当然入ると期待していました「神戸空港」が漏れています。神戸空港はすでに着工はされていますが、神戸市民の多くは、いまだに大きな疑問を持っているのです。近くに、関空・大阪と空港を二つも持ちながら、更なる建設がなぜ必要なのでしょうか。環境の面からも、安全性からも強い不安を覚えます。勿論、財政上からも、採算が取れるとは到底考えられず、危機的状況にある神戸市財政に、壊滅的打撃を与えるに違いありません。

 神戸で学生時代を過ごされ、神戸を愛しておられる扇さんには必ず共感していただけるものと信じています。

 私達は、生命を生み育てる女性として、新しい視点で、是非神戸空港問題の再検討をお願いしたく、お手紙差し上げます。お忙しいとは存じますが、一言メッセージ頂ければ、幸いでございます。

 7月22日にお送りしましたお手紙には、ご返事頂けませんでしたので、再度お願いいたしますとともに、この文面を新聞社にファックスし、神戸YWCAのホームページでも公開します。

2000年10月2日
神戸YWCA基盤・強調点委員一同



入院してみて気付かされた事

 この夏、7月末の土曜の夜10時頃急にひどい腹痛になりました。いつもは下痢止めの薬で治まるのに、この夜は次第にひどくなり、吐き気もしてきます。明日は日曜だから、朝になったら病院に行くと言うわけには行かない。痛みの原因が判らないので不安になる。2時まで我慢したが、これ以上ひどくなって電話も掛けられなくなったら困るので救急車を呼ぶことにしました。

 夜回りしている時、野宿している人から調子が悪いと訴えられると「うんとつらくなったら救急車を呼ぶ」ことを勧めたりするのですが、一人っきりで寝ていて酷く具合が悪くなれば、公衆電話まで行きつくのも難しい。(最近は携帯電話が増えたので公衆電話も以前より少なくなった。)一人暮しはヤバイときがあるよなあ、と思う。孤独死などと言う言葉が頭をよぎります。

 もし急に手術することになって、「タオル、三角巾、湯のみ、着替え、洗面道具その他色々を用意しなさい」と言われたらどうしよう。前もって救急車に持ちこむ事もできない、独り暮らしだから、誰かに持ってきてもらう事もできない。

 病院に着いて、鎮痛剤を打ってもらうが効かない。レントゲンでは原因は判らないとの事。もう1度鎮痛剤を打ち点滴をし「帰って良い」といわれるが、まだ痛むので、朝まで休ませてもらう。野宿していて、救急車で運ばれたが、点滴1本打って帰らされたと聞く事が良くある。なるほど、こういうことかと思う。

 僕の場合「もう1度検査に来なさい」と言われたが、野宿している人の場合、1度帰って、翌日病院に行くと「保険証は?」と聞かれる。ない、と答えると、全額自分で払えるか聞かれ、途方にくれてしまう。(入院、救急以外何時もそうなのです。)本当は、治療費のない人を治療する方法はあるのだが、普通はここで終わってしまう。その為に、病気を悪化させてしまう人が少なくない。そんな事を思いながらバスが動き出すのを待って帰りました。原因が判らないままで帰るのは嫌なものです。月曜日に診療所で「尿路結石らしい」と言われ、ひとまず安心しました。

 8月末、同じような症状になったので、診療所で、泌尿器科のある病院を紹介してもらい、入院する事になりました。入院の手続にも、手術の同意書にも保証人が必要です。保証人を頼むと言うのは、なかなか難しいものです。

 この事でも、野宿している人は困ってしまう。なってくれる人がいない事が多い。保証人が要ると言われただけで途方にくれ、治療を放棄する(病院を出てしまう)人もいます。「手術をして、事故があっても文句は言わない」という同意書の保証人になるのは難しい。もし、僕が保証人になって、医療事故があった場合、病院は同意書を楯に取るでしょう。他方、親族が現れて、僕の責任を問われたら、返事に困ります。

 これまで、病院訪問を続けてきて、しばしば、「お金を大事にするように」と言って来ました。野宿していた人が入院すると、普通は生活保護の医療扶助で治療は現物給付されます。他に、1ヶ月に24000円の日用品費が支給されます。これを始末する様にいうのです。「退院後の住居を確保するのに、手持ちのお金があったほうが良いから」。けれども、アパートを契約する段になって『幾ら残っている?』と聞くと、ほとんどの人が「残っていない」と言うのです。「どうして残さないの」と思ってきたのですが、自分が入院してみると、残らないのも道理だと思います。重症の時は寝たきりですからお金を使う事は少ないのですが、テレビを見ると1時間100円。洗濯機を回すのに100円乃至200円。乾燥機に200円。売店や自販機で飲み物を買えば120円。僕の入った病院は、お風呂は無料でしたが、350円払わなければ入れない病院もあります。退屈して雑誌や本を買うと・・・。煙草を吸う人はたばこ銭もいります。ちなみに、昔の病院は洗濯機は無料で、屋上に物干し場があったものですが、最近はプリペイドカードで洗濯機も乾燥機もテレビも動くようになり、何でも有料になってきました。手術に必要なタオルなども以前は医療費だったのに、今は自己負担になっているようです。

 以前、入院中のYさんが「金を貸してくれ」と言うので「使いすぎだ」というと、「毎日洗濯するので、洗濯代がかさむ」と言うので、「毎日は贅沢だ」と下着や洗剤を届けて洗濯の回数を減らす様に言った事があります。しかし、いざ自分が入院してみると、パジャマの上下とパンツだけで洗濯機を回してしまいました。代りのパジャマが1枚しかなければ、もったいなくても仕方ないわけです。家族が持ち帰って洗濯してくれる人には必要のない出費です。自分で洗濯できない人は、リネン会社と契約する様に言われ、高いお金を払わなければならなかったりします。

 入院していると、家の事が心配になります。野宿している人の場合は、自分のテントや小屋を持っていれば、壊されていないか、荒されていないか、大切なものが盗まれていないか、誰か知らない人が住みついていないか。心配の種はきりがありません。戻ってみたら、撤去されてしまっているかもしれないのです。いらいらする訳です。

 僕は帰る家があるから良いけれど、退院しても帰る家がない場合は、不安が大きい。仕事が沢山あった頃でも、すぐには働けないだろうと言う心配があった。今は、日雇い仕事はほとんどないので、退院したらたちまち、野宿にもどるほかないのです。(蓄えがない人は、給料を貰うまで食べないで過す事ができないので、日銭の入る仕事をせざるを得ないのです。自立できるまでの生活保障が必要なのです。)それで、7号に書いたように、病院訪問をして退院後も継続して生活保護を受けられるように、住むところを確保するお手伝いをしているわけです。その時、退院する時期に合わせて部屋の契約をしたいので、退院の予定を、お医者さんに聞いて欲しいと頼むのですが、なかなか上手く行きません。これも、自分が入院してみると、何時退院になるか2日前まで判りませんでした。衝撃波で石を割ったのですが、割った石が尿から出てしまえば良いが、残っていると再度衝撃波を当てる。又検査する。これを繰り返し、ある日「では明日退院」といわれた訳です。お医者さんに予定の日を聞くようにと言うのは、ずいぶん無理を言ってきたと反省しています。

 今回は、医療全体について触れたわけではありません。自分が入院してみて、気付かされた事を書いてみました。要するに、僕はちっとも理解していない!もっと良く聞かなければ!と反省しているという事です。

(野)

  夜回り準備会


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