野宿している人に対してよく、好きでしている、と言われますが、実際には抜け出す方法がないのです。
Kさん夫妻の場合で説明してみます。震災の翌年、バプテストの夜回りで出会った老夫婦に「若者に襲われて無け無しのお金を取られてしまった。恐ろしくて仕方ない。何とかして欲しい。」と求められました。
福祉事務所(各区役所にある)に行くとどうなるのでしょうか?
神戸市には福祉事務所長委任規則という規則があって、簡単に言うと「福祉事務所は住所不定者の生活保護の決定は扱わない」ことになっているといって、取り合ってくれません。(福祉事務所では「住むところを確保してから相談に来たら、生活保護を受けられます。」と言うのです。それが出来なくて相談しているのに!!)
ではどうすれば良いのでしょうか? 事務分掌規則という規則には、住所不定者の生活保護は保健福祉局保護課保護係(市役所にある)が行うとなっています。保護係に行くと、窓口は更生センターだと言われます。JR灘駅のそばに3階建ての施設があります。1階は更生援護相談所と言う宿泊施設(食事は出ない)で、2段ベッドと畳で最大約百人泊まれます。3階は更生センターと言う定員50人の更生施設で、入所できると寝床と食事は保障されます(生活保護法の施設保護)。小遣いは月に3000円になりません。2階には事務所があり、両施設兼任の職員とケースワーカーがいます。2施設の兼任なので、入所者には極めて判りにくいのです。1階に泊まっている人から良く聞く苦情があります。「職員に気に入られると3階に上がれる。3階では決まったベッドで寝られるし、食事ももらえる。自分は嫌われているので上がれない。」と思われているのです。
Kさん達は、ここにも入れません。ここは男性だけの施設だからです。ちなみに、女性の野宿者の受け皿もありません。神戸市は、兵庫県の婦人相談センター(売春防止法による施設)に相談する様に言うのですが、実際には断られる場合が多いのです。
そのほかに、1ヶ月1500円で泊まれる兵庫荘、6000円の磯上荘がありますが、どちらも安定して(継続して)働いていることが条件なので、仕事が得られない人は利用できません。
結局、Kさん夫妻の場合、どの施設も利用できないので、簡易宿泊所(通称ドヤ)に1週間分の宿泊費を払って(ある人が立替えて支払った)、福祉事務所に行き、「ここに住んでいるから」と言って、生活保護を受けることが出来ました。このようなケースを繰り返す中で、今では一泊すれば、そこに住んでいるとみなして、保護を受けることができる様になってはきました。
Kさん夫妻が泊まったのは、3畳の部屋でした。2人が暮すにはあまりに狭い部屋です。広さが畳1枚、高さは普通の1階を2階にしたカプセルホテル位の部屋で生活保護を受けている人も少なくありません。この狭さで、1泊900円から1500円くらいします。自分の部屋がたたみ1畳あたり幾らか計算してみてください、割高なのがわかると思います。
結局、今住むところのない人は、働ける場合は、兵庫荘や磯上荘を利用できる。
自分の収入でドヤ代を払えるが、たまに困る人は、更生援護相談所に泊まることでしのげる。しかし、仕事がなく、したがって収入がない人には、食事のない施設では暮らせない。
更生センターは食べることは保障されるが、ほとんど6人部屋(4人部屋もある)なので、人間関係が難しい。また、入所の手続が紹介されていないので、職員から声をかけられないと入れない。
ドヤに泊まって、生活保護を受けるというのが、野宿を抜け出す1つの方法です。このやり方の不思議なのは、「宿泊代を払える人は生活保護を受けられるが、その金のない人は受けられない。」ということです。(カトリック社会活動神戸センターではその為の貸付をしています)
もう1つの問題は、震災で相当数のドヤが壊れたのですが、震災復興計画にはドヤは含まれていないので、数が足りないことです。生活保護を受けたいが、借りれる部屋がないために、野宿している人が多いのです。