☆区役所の窓口から☆ No.2
< 申請しないのは本人の責任か? - - 震災施策のもう一つの問題点 - - >
「被災者生活再建支援法」の成立に伴って昨年7月に復興基金の制度として「被災者自立支援金」の制度ができた。この制度はそれまでの「被災高齢者世帯等生活再建支援金」(生活再建支援金)と「被災中高年恒久住宅支援金」(中高年自立支援金)の2つの制度を改定して、新たな対象世帯を加え、『支援法』と同等程度の支援金を支給するというものである。
新たな制度ができて新聞や広報に掲載されると、区役所には多くの市民が問い合わせにやってくる。先の支援金もそうだが、申請書についている説明書を読んでも、果たして自分に支給されるかどうか多くの人は理解できない。役所の職員でさえあの説明書を読んでもどんな人にどれだけ支給されるのか又支給されないのかはっきり分からないのである。それに震災関連の施策はよく似た名前のものがいくつもあり、それぞれに支給要件が異なる上、途中で要件が変更されているものがあり、ますます混乱する。
支給されるかどうか区役所に聞きに来る人は、情報を入手し積極的に自分で確認しようという人で説明を聞いてそれなりに理解して帰っていく。しかし、そんな人でもその他の制度について申請しているかたずねてみると意外と申請していない人が多いことに驚く。
ある制度で支給されない(利用できない)といわれたため他の制度もだめと思いこんでいたケース、以前支給されないとされた為あきらめていたがその後支給要件が変更になって支給対象となっていたというケース、紛らわしい名前のため既に支給されていると思いこんでいるケース、それに全く知らなかったというケースなど様々である。
Yさん。50歳代の男性で一人暮し。住んでいた文化住宅が全壊し、市外の知人宅に住まわせてもらっている。話しを聞くと、一番初めに10万円と14万円(第1次義援金と県市見舞金)をもらったきりで、生活支援金(第3次義援金)の申請をしていなかった。なぜ申請をしなかったのかとたずねると全く知らなかったとのことであった。
Oさん。40歳代の女性。中学生の子供と二人暮し。文化住宅が全壊し、避難所をへて勤務していた会社の親会社の社宅に住んでいる。家賃は親会社の社員の数倍で民間マンションと同程度である。社員でないということで肩身の狭い思いをしながら暮らしている。_助成義援金(30万円)は社宅は支給対象外となっているため申請していない。民間賃貸住宅家賃負担軽減事業(いわゆる家賃補助、月3万円)も申請していない。しかし、社宅として住んでいるわけでなく、親会社の好意で住まわせてもらっているだけで家賃やその他の条件は民間住宅と何の変わりもない。社宅であっても実態が民間住宅であれば当然どちらの制度も利用OKである。これは説明書のどこを読んでも書いていないことである。
Sさん、75歳。妻と二人暮し。自宅は全壊。年齢のため融資は受けれないため、預金、保険、会員権などを解約して再建費用を捻出した。この人も住宅助成義援金の申請をしておらず、その上、「高齢者住宅再建支援事業(最高57万円)を全く知らなかった。
Kさん、60歳。55歳の妻と20歳代の子供の4に家族。芦屋のマンションが全壊し今は神戸市内のマンションに住んでいる。この人も震災直後に20数万もらっただけだといい、中高年自立支援金は家族全員の所得がオーバーしていると言われもらうのをあきらめていた。(現在の自立支援金ができる前の話しである)区役所にきたのは国民健康保険と税金が高くて払えないということであったが、よく話しを聞くと、Kさんは原爆被爆者で被爆者手帳を持っていた。それを確定申告のときに申告しておらずそれをいれて計算すると世帯全員の所得税が0となり、「生活再建支援金」が150万円支給される条件が整ったのである。その上、要援護家庭激励金(第2次義援金)の30万円も支給されることが分かり、結局Kさんは生活支援金(第3次義援金)15万円、住宅義援金30万円、生活再建支援金150万円および月3万円の家賃補助の申請を行った上、国民保険料と税金も減額となったのである。
このような例は私が直接かかわったものだけでも10人や20人ではない。「全然知らんかったわ。助かるわ」といってみな帰っていかれるのだが、区役所の窓口にたまたま別の用件で来た方でたまたま私が聞いただけでこれであるから、一体どれだけの人が受け取れるものを受け取っていないのか、その数は相当なものになるのではないかと思う。
自立支援金の制度を始めとしてその内容に問題点も様々あるが、窓口でこんな例が次々あると、その制度さえもきちんと利用されるように十分な手立てが打たれていないような気がするのである。申請していなかった人が決して生活や経済的に余裕のある人というわけではなく、むしろその逆の場合が多い。広報なので何度も宣伝しているのだから、申請しないとか制度を知らないと言うのは本人の責任だということにならない問題があるのではないだろうか?(M.H)