「上筒井から」Vol.3(Feb. 1999)

被災地神戸の現状  〜仮設住宅では今〜


 神戸市の仮設入居世帯数は、1月1日現在で約5300世帯。行政の「仮設住宅3月末期限」方針で住民は右往左往している。10月の公営住宅募集では、これまでの仮設優先枠がなくなり、被災者枠として抽選された。仮設からの当選者は1割以下の115世帯にとどまった。

 12月末には9月末個別あっせんで住宅の決まらなかった世帯のうち、第1、第2優先世帯(70歳以上の高齢者及び中度以上の障害者)の約100世帯(追加登録50世帯を含む)に対して、第2回目の個別あっせんが行われた。各区担当者が決められた時間に戸別訪問し、あっせん住宅リストから住宅を提示、住宅が決まれば神戸市生活再建本部に携帯電話で連絡して、仮予約をとるというような方法だ。人気のある住宅などは、1秒の差で確保できたりできなかったりと、まるでコンサートチケットの電話予約のようである。迷っている暇はない。この個別あっせんで9割以上が成立したということである。

 1月23・24日、30・31日には、残りの世帯に対し、各区ごとに集中あっせん会が開かれた。結果、登録者の8割に当たる約700世帯が公営住宅入居キップを手にした。今回のあっせんでは、新たに「見込み空き家」が募集住宅に新たに加わった。行政は、市街地の公営住宅に2年間で500戸の空き家が発生すると見込んでいる。実空き家200戸と合わせて700戸が市街地の公営住宅として仮設解消のための“あっせん玉”となった。

 今まで公営住宅に落選し続けて、メドのなかった人々にとって、「見込み空き家」でも住宅キップが手に入ったことは、救いであった。しかし、諸手を挙げてよろこべる、というものでもなかった。

 70代で独り暮らしの女性Aさんは、「見込み空き家」で希望する住宅へ入居するためのキップを手にした。これまで、「いったいどこに行かされるのだろう」、と不安な毎日を過ごしていたため、先のメドができてほっと安堵した。しかし、「見込み空き家」選択の時点で、神戸市長あてに誓約書を書かされたことが非常に気になりだした。誓約書には、「…『公営住宅入居待機者支援制度(注1)』を利用して一時入居住宅へ移転し、応急仮設住宅を返還いたします。なお、応急仮設住宅の返還ができない場合は、入居決定を取り消されても異議のないことを誓約します。」とある。 Aさんは、あわててフェニックスプラザの受付窓口に行った。不動産屋ものぞいて見た。

 「せめて仮設並みに」という思いがあるが、狭くて荷物が入らなかったり、お風呂がなかったりと条件が合わない。少ない年金暮らしなので負担は増やしたくない。引っ越しを繰り返すことに体力がついてゆくかしら、とも思う。ほっとしたのもつかの間で、また次々と心配が襲ってくる。

 Bさんは、5人家族である。公営住宅の完成が今年の6月以降になるので、「公営住宅待機者支援制度」を利用するように言われている。しかし、独り暮らしであっても多人数世帯であっても、補助の上限は月額7万円まで。世帯人数によって補助額もスライドしないと公平でないと思っている。「見込み空き家」の登場で、存在の意味を失ってしまった制度がある。郊外の空き公営住宅に一時入居し、公営住宅募集の際、希望する住宅に応募し、当選を待つ「公営住宅特別交換制度(暫定入居)」という制度だ。神戸市においては9月の個別あっせんから運用されるようになったばかりである。3月末仮設解消の発表直後に出てきた新制度であるが、1335世帯のうち、利用したのは86世帯にとどまった。市街地の仮設の人々には、「ここを離れて、郊外に行ってしもたら、もうおしまいや」という勘のようなものが働いたのだろうと思う。12月、暫定入居を選択した人から、「実際に行ってみたけど、病院はこちらにあるし、とても通えない。どうしよう」という声を聞いた。3カ月の内に「見込み空き家」という新手が出てくれば、行政の勧めに従って、すでに暫定入居を選択した人にとっては、腹立たしい限りであろう。暫定入居の場合、郊外に行かされ、家賃は発生し、引っ越し費用は自己負担、おまけに希望の住宅に入るのは抽選である。「暫定入居」と「見込み空き家」どちらも一時入居が伴うが、希望住宅への入居はどちらが優先されるのだろうか。短い期間の間に、仮設入居者はどんどんふるいにかけられているようだ。

 こんな折り、1月あっせんの直前に、六甲アイランド第6仮設には、仮設空き棟撤去のお知らせが各戸のポストに入った。仮設住民の集いに参加されている70代の女性住民から訴えの電話があり、私たちはこのことを知った。「2月〜3月に空き棟を全部撤去する、と書いてます。投石や放火、不法侵入があるから、ということだけど、そんな話は聞いたことありません。私は3月末には引っ越しますが、それまで静かにしておいてほしい。それよりも住宅に当たっていない人がまだいるというのに。こんなことされたら、残っている者はますますわびしくなります。いやがらせとしか思えません」。仮設居住者実態調査の会では、この電話を受けて、住民に対して聞き取りを始めた。 1月あっせんが終わった。仮設住民連帯の集いに参加されている方の中には、あっせん順位が後の方であったため、希望の住宅がなく、あっせんを断った方もある。もうこれ以上ないほど追いつめられた気持ちになっておられる。神戸市は引き続き個別あっせんを行うとのことだが、いつ行われて、いったいどんな住宅がでてくるのか、気がかりなところである。仮設住宅をめぐる問題はこの他にもたくさんあって書ききれない。個人が抱えている事情は違う。仮設解消の段階で住民ひとりひとりの人権が守られるようにと願う。

(真)


(注1)「公営住宅入居待機者支援制度」 兵庫県住宅供給公社が民間住宅を借り上げて公営住宅入居待ちの仮設住民に提供する、という制度。家賃と敷引き(月割り)合わせて月額7万円まで、阪神淡路復興基金より補助がでる。また、移転費用も一定額補助がでる。この制度の受付期間は3月末までとなっている。


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