「上筒井から」Vol.2(Nov. 1998)

被災地神戸の現状

(*注)神戸市からのお知らせ


 9月16日頃、神戸市内の仮設住民に生活再建本部から郵便物が届いた。この郵便が仮設住民の中に波紋を広げている。

 「平成10年9月14日仮設住宅入居者のみなさまへ 神戸市」で始まる文書 (*注) の見出しには、太字で、「応急仮設住宅の使用期限と契約更新について(お知らせ)=仮設住宅の入居期限は最長で平成11年3月末まで=」と、書かれている。

 仮設使用契約は、4度目になるが、「最長で」という文字が記載されたのは、今回の契約更新がはじめてである。

 平成11年3月末までに仮設を出てて転居する予定のある人は、これを見過ごして、引越しの日まで仮設で生活できると安堵しただろう。移転が4月以降にずれ込む人は、「別紙各種制度」をにらんで右往左往している。しかし一番衝撃を受けたのは、先の見通しの立っていない人である。

 裏面には「なお、恒久住宅へ転出された場合、一定要件に該当する世帯に対し、被災者自立支援金が支給されます。」と囲みで書かれており、以下「被災者自立支援金」についての説明が続いている。

 別紙には「ご利用いただける主な制度」として住宅助成義捐金、民間賃貸住宅家賃負担軽減事業、公営住宅入居待機者支援事業、持家再建待機者等支援事業などが列記されている。

 仮設住宅には、まだ8000世帯が生活している。この9/14付文書(お知らせ)が各戸に届いた時期、公営住宅入居を希望しながら、抽選に落選し続け、7月の特別あっせん登録の際の抽選にもはずれ、9月16日よりはじまる個別あっせんを受けようとする世帯が1335世帯あった。個別あっせんの直前に届いた「お知らせ」は、仮設住民、とりわけ恒久住宅のメドのない人々の心に細波を立てた。「仮設は3月末で閉じますからね」と宣言するような文書を一方的に送りつけられ、いったい何のために、どうしてこの時期にこのような文書を送るのか、というのが正直な疑問である。個別あっせんと同時に公営住宅特別交換制度(暫定入居)が神戸市で始めて実施されることも、この文書が送られた後では、仮設からの追い立てのように感じられる。さらに、別紙に記載されている各支援制度は平成10年12月末から11年3月末に順次期限が切れていく。「早く仮設から出ていけ」といわんばかりである。

 個別あっせんは、事前の抽選により決められた「あっせん順位」に従って行われた。第1順位は80歳以上の高齢者と重度障害者など(83世帯)、第2順位は70歳以上の高齢者と中度障害者など(168世帯)、第3順位はその他(1084世帯)と続く。第1順位の世帯には、役所の職員が各戸別に回り、第2順位以下は、指定された日に指定された場所に行くという方法が取られた。「もう、ぜーんぜんダメ。ええとこはみーんな赤線引かれて消されとったわ。さっさと帰ってきた。」というような声を第2順位の人からすらも聞いた。

 「それで、暫定入居とかは考えた?」「そんなん、遠くに行ってしもて、こっちに戻ってこれるっちゅう確信ないやろ。それに何べんも引っ越しでけへん。」

 結果、第1順位では76%にあたる63世帯が、第2順位では75%にあたる126世帯が、第3順位ではわずか25%にあたる279世帯が公営住宅へのキップを手にしたが、867世帯はまだである。

 今後も3月末までに個別あっせんが実施されるということだが、一度決められたあっせん順位はそのまま、つまり、次回はまた若い順番からあっせんということである。そのことを行政の窓口で聞いた1000番台の女性はがっくりして気力を失ってしまった。

 3月31日という仮設契約の期限をこの時期に設けることがおかしい。「4月1日以降、行き先の決まっていない人がいればどうするのか。」という質問に対し、「3月31日までに全員の行き先が決まっていることが前提。そのために全力をつくしている。」というのが神戸市の答えだった。仮設住宅も過疎化が進み、住民は精神的にも限界がきているのは事実である。誰よりも仮設住民自身が住宅のメドをつけたいのである。しかし、皆が希望する地域に住宅が足りないという問題を根本的に解決するための新しい施策はないし、個別あっせんの対象からもはずされている若年単身者の問題(震災特例が切れたため、公営住宅の入居資格を失った)は依然として解決していない。

 まもなく10月の公営住宅募集が始まる。今回の募集から一般募集に切り替わった。東灘区から中央区の市営住宅は163戸。宝くじに当たるようなものかもしれない。

(真)


*注:郵送されてきた文書を以下に掲げる


応急仮設住居入居者のみなさまへ

平成10年9月14日
神戸市

応急仮設住宅の使用期限と契約更新について(お知らせ)
=仮設住宅の入居期限は最長で平成11年3月末まで=

 応急仮設住宅に入居中のみなさまにおかれましては、一日も早く安心して暮らせるように恒久住宅の確保に向けてご努力しておられることと存じます。

 現在、皆様がお住まいの応急仮設住宅の使用期限は、先般の契約更新によって平成10年9月末となっていますが、この度、兵庫県が使用期限を最長で6ヶ月間延長できることを決定しました。これを受けて、神戸市では10月中旬ごろに、平成11年3月末を最長期限とする応急仮設住宅の使用貸借契約の更新手続きを行なう予定ですので、お知らせいたします。

 このため、平成11年4月以降に公営住宅等恒久住宅に転居される予定の方や、まだ恒久住宅を確保されていない方は、別紙の各種制度(制度によって条件が異なっています)の活用をご検討いただき、恒久住宅への移転に努めていただきたいと存じます。

 また、7月に行ないました災害復興(賃貸)住宅特別あっせん登録募集に応募され、残念ながら仮当選されなかった方につきましては、引き続き個別斡旋を行ないます。

 今後とも、兵庫県等関係機関と連携し、みなさまとともに努力させていただく所存ですので、ご理解のほどお願いいたします



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